主催:アース製薬株式会社 共催:朝日新聞社メディアビジネス局
五箇 公一(ごか・こういち)先生国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 室長
地球上の生態系システムは、生物多様性の世界によって支えられています。しかし、生物種の多くが生息する熱帯雨林の破壊や地球温暖化が加速し、生物多様性の世界は劣化し続けています。野生生物の生活圏に人間が深く侵食することで、野生動物に潜んでいた未知のウイルスが人間社会にスピルオーバー(拡散)することもあります。その結果が、SARSウイルス、HIV(エイズウイルス)、そして新型コロナウイルスなど新興感染症の出現につながっているわけです。
もともと生物多様性がつくる生態系は持続的循環システムでした。太陽光エネルギーで植物が育ち、その植物を草食動物が食べて、その草食動物を肉食動物が食べるという関係でつながり、すべて生物は無機物と化して、また植物の栄養源となる。基本的なルールは一つ。「強いものほど数が少ない」というピラミッド構造であることです。
しかし人間は77億という人口規模でピラミッドの頂点に立ち、化石燃料を掘り起こし、物質生産とエネルギーに充当しました。生物進化40億年の歴史でこんな生き物は皆無です。一方、生態系にはレジリエンス(復元)機能があり、定員を超過した生物は減らすという機能が働く。新興感染症は起こるべくして起こったということになるのです。
生物多様性は、人間社会を守るための安全保障でもあります。自然との共生社会を築くためには、人間社会と動物社会が双方の生活圏をわきまえ、互いの世界を侵食しない・させないという「ゾーニング」の考え方が重要となります。
また、過剰なグローバリゼーションをやめてローカリゼーションへ、そして持続的社会へとシフトする必要があります。その一歩が「地産地消」です。地場の農産物を消費するということだけでなく、地域が擁する資源やエネルギーを、地域レベルで循環させて安定した自立型社会をつくるという意味です。生物多様性と人間社会の持続的関係の第一歩はここにあると思います。